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andymoriとはつくづく不思議なバンドだと思う。
遠目にはまあ普通のロキノンバンドだと思う。大した物珍しい音楽性でもなく、そこそこにキャッチーで、そこそこに尖っていて、そこそこの個性もあり、そこそこに売れている。
しかし一つでもアルバムを借りてみてみると、ずいぶん印象が変わる。
まず歌詞が違う。あまりにも他の邦楽バンドとは違う、具体性と抽象性が妙な混ざり方をしている。音楽性も、決して多種多様というわけではないが、どの曲も何とも言えない違いがある。曲構成や歌い方、リズムやメロディなどに細かい差とこだわりがあり、飽きない…というわけではないが、不思議とアルバムを通して聞いてしまう。
これはあくまで個人的な感覚ではあるが、俺はよく洋楽のアルバムは通して聞く。洋楽は曲自体の質というよりアーティストごとの個性でCDを買っているので、捨て曲とかシングルみたいな概念を意識せずに全曲聞く。逆に邦楽に関してはポップさや曲の完成度を重視して聞くので、どうもシングル曲だけ聞いてあとはほとんど聞かないみたいなことが多い(まああまりよくない聞き方ではあるし邦楽や洋楽といっても様々ではあるが)。
しかしandymoriにおいてはどうしても全曲聞いてしまう。もちろん"CITY LIGHTS"や"everything is my guiter"などのキラーチューンはあるが、他の曲も飛ばそうという気にならない。別に完成度が高いとかアルバム一枚で物語がどうのみたいな話ではなく、さっき言ったような意味でandymoriとしての個性に魅力があるからだと思う。こんなバンドはロキノンバンドでは他にいない。
それは何かと言われれば…色々な要因があるが、小山田荘平の若々しい声で歌われるどこか悲しいメロディが、やはり全てにおいて自分の琴線に触れる。
そのandymoriの四枚目である。
前作『革命』の延長線上にあるといえばあるが、また違うところに行っているというのがまず受けた印象だ。『革命』は三人で一斉に鳴らしたパンクロックアルバムという印象が強かったが、これはもう少し広がった…広義でいうロックなアルバムといったところだろうか。リズムもいつも通りの速いトラックは半分くらいで、今までのディスコグラフィから考えても落ち着いたアルバムといえる。トランペットやリコーダーなど新しい音色もうまい具合に使われている。
1,2曲目はわかりやすいandymori風の曲だが、歌詞は『革命』での具体性を強めたものに近く、古い日本の歌謡曲を思わせる。"光"のあまりにもストレートな歌詞は1st,2ndの抽象的でどこか風刺の効いた歌詞を好んだファンには凡庸に映るかもしれないが、しかしむしろこれほどまっすぐな歌詞をてらいなく書けるということに俺は小山田の才能を見る。
「分かるかい?砂に書いた文字も石に刻んだ名前も波と風に消えていくから今君の手に触れたいんだ」というラインには、強い諦観とそれゆえの愛の渇望がある。それは巷にはびこる別れソングのくだらないセンチメンタリズムやそれこそ引用元の昭和歌謡の様式に近い三流ラブストーリーのどちらでもありどちらでもない、今の時代だからこそ書ける歌詞だと俺は思う。これをパンクロックに乗せて歌うところに意味がある。
正直"インナージャーニー"や"三分間"などはすこしつまらないとは思う。わかりやすいキャッチーさから逃げた悪い結果だとは思う。
だが、それを補って余りあるほどに、ミディアムバラードの"君はダイヤモンドの輝き"は素晴らしい。
今までのandymoriからいえば"1984"や"16"が近いとは思うが、よりフォークに近づいたそのバンドサウンドとともに、乾きつつも憂いを帯びたメロディを存分に発揮して小山田は歌う。
「君はダイヤモンドの輝き 僕だけが愛した人 この心の中の小さな光がたどり着いた瞳」
タイトルは冗談のような恋の文句で、歌詞もただひたすらに愛を歌い、だがどこまでも曲は悲しく、それは俺にとってけいおんやストライクウィッチーズに近い。悲しみを知りながらしかし決してそれをあらわさず、だがたった一言だけ「ごめんね ありがとう」と呟くその姿は、街宣車や右翼をからかった1stの彼らでは決してたどり着けなかった場所にいる。
そして、間違いなくこのアルバムのハイライトになっているのが、"クラブナイト"だ。
まさかのイーブンキックと、マーチングリズムというむちゃくちゃな組み合わせに合わせて歌われる、このアルバムでは珍しい完全に躁な曲である。曲構成は何一つ珍しいものではない。相変わらずの素晴らしいメロディとともに、ほとんどリズムも変わることなく叫ぶ。
「輝いた時代のアルバムをめくる手を止めて クラブナイトへおいでよ 下心でもいいよ 君の好きなレコードをかけるよ」
クラブという現代の邦楽からかけ離れたものをメタファーとして、ひたすらにうずくまり傷をなめあう邦楽ファン、そしてただひたすらに過去に囚われる懐古厨その両方に前へ進めと叫ぶこの歌を聞いたとき、俺は彼らの非凡さに気づいた、
これはぜひライブバージョン(http://www.youtube.com/watch?v=lukyWRbpMC0)を聞いてほしい。CDの何倍も力強く叫ぶ小山田と、ひたすらに楽しそうに演奏するバンドたち、そしてそれに応えるファンたちのの美しさは何物にも換えがたい。
彼らが売れているというのは、素晴らしい事実だと思う。
ファンはその非凡さに気づいているような感じではないが、色々な音楽に触れてきてなお見渡した邦楽の状況において、彼らの異才はひときわ輝いて見える。
もちろん足りないものもあるし、耳を楽しませる音楽かといわれるとそうでもないが、ロック本来の若さと力強さというものをしっかりと保持しているバンドというと、今の世代に受け入れられているバンドでは彼らと…9mmくらいのものではないか。
しかしどうやらファンも最近の路線は好きではないらしい。まあ気持ちはわからんでもないが。
RADWIMPS的でも凛として時雨的でもなく、くだらない参照で楽しむボウディーズや毛皮のマリーズの類でもない。しっかりと今の時代を把握しつつ、新しい答えを出していくバンドとして、彼らの行く末をこれからも見守っていきたい。
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